台風19号が来る前の話です。
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爽やかな空気に変わり、いかにも秋ですね。
「読書の秋」だとか「スポーツの秋」だとか「食欲の秋」だとか、よく言われます。
それから、3才になる息子の幼稚園でも運動会がありました。
幼稚園の運動会は大賑わい。
保護者の方々が大勢詰めかけ、幼稚園の校庭はびっしりです。
ちなみに、保護者の方々は誰ひとりとしてビールを飲んでいませんでしたよ(目からウロコ!)。
そんなとき、私は尊敬すべき人物を発見しました。
園児を応援するお父さんお母さんたちの嬌声の中、ものすごい集中力でページをめくっていきます。
数十分後。
園児たちのパフォーマンスにいくらか気を配りつつそれでも本を読み続ける姿は、仕事をしながら本を読み続けた「二宮金次郎」を彷彿とさせるものがあります。
いってみれば老紳士は、「読書の秋」と「スポーツの秋」を両立させていたのです。
私は感服のあまり、老紳士を観察していました。
すると、老紳士は鞄の中からおむすびを取り出し、ひとくちパクリ。
なんと「読書の秋」と「スポーツの秋」、さらに「食欲の秋」まで同時進行!
あっさりと「二宮金次郎」を超えてみせたのでした。
(ちなみに私も、「老紳士の観察」と「息子の応援」を両立させました。)
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老紳士に刺激を受けて、私も少しずつ秋の夜長に読書をし始めました。
ただ酒を飲みながらの読書のため長編小説より短編小説ばかり。
作者は、《青山七恵/朝吹真理子/東浩紀/池澤夏樹/石原慎太郎/上田岳弘/江國香織/江藤淳/円城塔/大江健三郎/小川洋子/奥泉光/小山田浩子/角田光代/金井美恵子/金原ひとみ/川上弘美/川上未映子/桐野夏生/車谷長吉/河野多惠子/佐伯一麦/柴崎友香/島田雅彦/瀬戸内寂聴/高樹のぶ子/高村薫/田中慎弥/多和田葉子/辻原登/津島佑子/筒井康隆/津村記久子/中村文則/橋本治/平野啓一郎/福田和也/古井由吉/保坂和志/星野智幸/堀江敏幸/又吉直樹/町田康/松浦寿輝/松浦理英子/水村美苗/村上春樹/村上龍/村田沙耶香/矢作俊彦/山田詠美/柳美里/吉田修一/吉本ばなな/リービ英雄》
そうそうたる顔ぶれの中でも、驚いた短編を3つ挙げると、「晩年の子供」(山田詠美)、「生命式」(村田紗耶香)、「ペニスに命中」(筒井康隆)。
「とっておき名短編」
「読まずにいられぬ名短編」
「トラウマ文学館」は傑作ぞろい。
「はじめての家族旅行」(直野祥子)、「気絶人形」(原民喜)、「テレビの受信料とパンツ」(李清俊)、「なりかわり」(フィリップ・Kディック)、「走る取的」(筒井康隆)、「運搬」(大江健三郎)、「田舎の善人」(フラナリー・オコナー)、「絢爛の椅子」(深沢七郎)、「不思議な客(『カラマーゾフの兄弟』より)」(ドストエフスキー)、「野犬」(白土三平)、「首懸の松(『吾輩は猫である』より)」(夏目漱石)、「たき火とアリ」(ソルジェニーツィン)
直野祥子のマンガに悪夢を見て、やっぱり深沢七郎は最高だと思いました。
「とっておき名短編」
「愛の暴走族」(穂村弘)、「ほたるいかに触る」(蜂飼耳)、「運命の恋人」(川上弘美)、「壹越」(塚本邦雄)、「一文物語集」より『0〜108』(飯田実)、「酒井妙子のリボン」(戸板康二)、「絢爛の椅子」「報酬」(深沢七郎)「電筆」(松本清張)、「サッコとヴァンゼッティ」(大岡昇平)、「悪魔」(岡田睦)、「異形」北杜夫
ここにも深沢七郎が登場。飯田実だとか塚本邦雄など始めて読む作者の小説に出会えました。
「読まずにいられぬ名短編」
「類人猿(抄)」「しこまれた動物(抄)」(幸田文)、「デューク」(江國香織)、「その木戸を通って」(山本周五郎)、「からっぽ」(田中小実昌)、「まん丸顔」「焚き火」(ジャック・ロンドン)、「蜜柑の皮」(尾崎士郎)、「馬をのみこんだ男」(クレイグ・ライス)、「蠅取紙」(エリザベス・テイラー)、「処刑の日」(ヘンリィー・スレッサー)、「幸福」「夫婦」(中島敦)、「百足」(小池真理子)、「百足殺せし女の話(抄)」(吉田直哉)、「張込み」(松本清張)、「武州糸くり唄」「若狭 宮津浜」(倉本聰)
松本清張の「張込み」を、倉本聰が時代劇のシナリオにしていますが、名人芸です。
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運動会から少し経ったころ。
私の町に台風19号がやってきて、去りました。
先述の幼稚園の周辺が水浸しになりました(幼稚園は助かりました)。
私の家や会社の周辺も水浸しになりました(私の家と会社は助かりました)。
台風が去った朝、晴れ渡りました。
台風被害の情報が入るに従い、何人もの知人の顔が頭に浮かびました。