それなりに映画や本に親しんでいますが、たまには仕事の役に立つ経済に関するものにも触れてみようと思う今日このごろ。


日活の映画、「“経営学入門”より ネオン太平記」(DVD)を見ました。

小沢昭一が主演の、1968年公開の映画です。

実際に見てみると、「経営学」とは全く関係のない映画で、当然といえば当然ですが、仕事に役立つ内容ではありませんでした。

けれど、私にとっては嬉しくなるような傑作だったのです!!


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「“経営学入門”より ネオン太平記」について。


主演の小沢昭一は、キャバレーの支配人役。

ストーリーは、

《東京の古本屋を廃業して大阪の大衆キャバレー「オアシス」の支配人となった益本利徳(小沢昭一)。(中略)そんな時に競争相手が新装開店するという情報が入る。

利徳は、一刻も早く第二「オアシス」を開店させて対抗しようと奮闘するも、地元住民の反対は強かった。その間、素行不良の従業員、ホステス同士のいざこざ、警察沙汰、双子ホステスとの深い仲・・・あらゆるトラブルが続出する。そんな時、利徳にテレビのワイドショーに出演する機会が訪れる。キャバレーについて熱弁をふるう利徳。はたしてこの思いは世間に届くのか、そして第二「オアシス」は開店できるのか。》

大きな事件が起きるわけではありません。

でも、私には見どころてんこ盛りの快作でした。


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見どころ その1

小沢昭一(キャバレー支配人)

懸命にキャバレーを運営する小沢昭一。下世話で達者な名人芸を堪能できます。

下流への志向に小沢昭一の人間観がにじみでています。

しまいには、下世話な人物たちのほうがかわいらしく健気に見えてくるのが不思議です。


「古本屋を廃業してキャバレーの支配人になった」という主人公の経歴が、どうしたって知性が漂ってしまう小沢昭一(土着性に憧れる都会人という本人のイメージ)にピッタリです。


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見どころ その2

桂米朝と小松左京

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オープニングで、ケチな二人連れの客として登場します。

桂米朝(写真左)は、ケチなくせに図々しくホステスにお触り。

イケメンの桂米朝がベラベラ関西弁を喋りながら抱いたり擦ったり密着したり。

女性の扱いのうまさに、手練れだなぁ、さすがなだなぁと感心してしまいます。


一方、太った小松左京(写真右)は、「イモ」サラリーマン。

ちなみに、桂米朝と小沢昭一は、ともに正岡容の弟子で「やなぎ句会」の句友でもあります。


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見どころ その3

西村晃

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ダンサーの振付師です。
キャバレーの支配人(小沢昭一)の相談相手という設定。
実際、小沢昭一と西村晃は、脇役として日活をはじめ多くの映画で共演している盟友でもありました。

小林信彦によると、

《小沢昭一さんから聞いた話だけど、西村晃とちょい役にどんな細工をするかで競ってたというんです。それである日、西村晃が肩にオウムを止まらせてきた。それでもう負けた、と(笑)》(大瀧詠一との対談より)

ひどい演出です。


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見どころ その4

加藤武

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小指が最高です。
ユニセックス(ゲイ?)のメイク担当。
男っぽい加藤武が女性口調で話すってだけで、おかしさ満点。

やはり加藤武も、小沢昭一や桂米朝と同様、正岡容の弟子で「やなぎ句会」のメンバーです。

数年前、永六輔(やなぎ句会のメンバー)のラジオ番組に、加藤武が出演し、小沢昭一のことを話していました。
加藤いわく「あいつ(小沢昭一)と遊ぶのは、風俗ごっこ。俺がやるのは男の客!あいつはなんだか分からないけど風俗嬢をやりたがるんだ!/俺が『触らせろよっ』ってぇと『ちょっとぉ、せかないでぇ』なんつーのがうまいんだよ!」
おじいさん二人のじゃれあう姿を想像すると笑ってしまいます。

古書店で入手した「面白半分」という古い雑誌に、加藤武のインタビューが載っていました。

引用します。

《加藤「日活には悪童ども、おなじみの小沢昭一とか西村晃とかがいましてね、撮影が終わると待ちかねたようにね、トルコ、トルコといっては車を飛ばして調布から新宿へ行ったものですな。/トルコで本番やるのは邪道じゃないかと思うんです。トルコっていうのは個室で風呂に入ってマッサージして貰って凝りをほぐすという発想にあったんですからね、一物の凝りも含めてね」》

一物の凝り?

(ちなみに、この号の「面白半分」の編集長は野坂昭如です)


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見どころ その5

野坂昭如

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ワイドショーの司会者役。

黒めがねで胡散臭いところがイイですね。


小沢昭一と野坂昭如は、永六輔を加え、中年御三家として日本武道館でコンサート(日本人初)を開催した仲です。

また、「エロ事師たち」という野坂昭如の原作小説の映画化で、小沢昭一が主演をしたことで、意気投合したのだとか。


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見どころ その6

北村和夫

小沢昭一を逮捕した刑事役。

珍エピソードにことかかない文学座の重鎮です。

小沢昭一とは早稲田大学時代からの盟友なのです。


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見どころ その7

渥美清(特別出演)

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ゲイバーのママ役です。


「おかしな男 渥美清」(小林信彦)の文庫版の巻末に小沢昭一と小林信彦が対談しています。

その中で「ネオン太平記」に出演した渥美清のことを、小沢昭一が語っています。

《小沢「(渥美清の凄みは)毒のある演技ですよ。一緒に出ている人がみんな斬られちゃうんです。「ネオン太平記」という日活映画で、渥美さんがゲイバーのママを演じているんですが、それはもうすごい。あの顔でゲイバーのママだから、それだけで相当おかしいんですが、それがまた、鬼気迫るママをやるんですね。驚嘆しました」》

これを読んだ当時、いつか「ネオン太平記」を見てみたいと思ったものです。


小沢昭一は、同年代の渥美清がフランス座(ストリップ小屋)でコントをしていたころから、客として渥美を追いかけていたのだとか。

のちに俳句仲間になりました。


「ネオン太平記」の13年後、二人は「男はつらいよ」で共演しています。

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古い馴染みの、テキ屋仲間が久しぶりの再会。


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見どころ その8

三國連太郎(特別出演)

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インテリ(生物学者)の客。(写真左)

ホステスに、学術用語で高尚なことを話していると思いきや、実は学術用語を使って卑猥な話をするという変人。

無論、ホステスに嫌われています。


この「ネオン太平記」が公開された40年後のこと。

「釣りバカ日誌18」で、三國連太郎と小沢昭一は共演。

インタビューによると、三國連太郎が「釣りバカ」に小沢昭一をキャスティングしたそうです。

《三國「役者は、物語を実体化するために芝居の足がかりを求めることがある。僕は、この大切な場面で、小沢君の配役を頼んだ。彼とは、昔からの気の知れた仲であり、彼をきっかけに、濁ったものを洗い落とすように演じた」》

なんだか深い発言。


どんな共演シーンだったかというと、 

スーさん(三國連太郎)が、古い馴染みである政財界の実力者(小沢昭一)に会いにいき、ある依頼をするというシーン。

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小沢昭一を待つ三國連太郎。


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車椅子&サングラスで現れる小沢。 

久しぶりの再会を果たす二人。


小沢「なんだい、まだ生きてやがったのか」

三國「お互い様だよ」


そのあと、小沢昭一は、スッと立ち上がり、スタスタ歩きだすという胡散臭さ。


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「ネオン太平記」を見ていたら、仲の良かった仲間たちと再会したような、夢のような同窓会に参加したような幸せな気持ちになりました。

実際、小沢昭一の仲良しメンバー大集合、という映画でもあります。

でも考えてみたら、皆ことごとく、この数年のあいだで亡くなっているのだなあ。
本当に、DVDの中だけの夢だったと気がついたのです。