軽井沢への吟行をご一緒したKぼさんから信濃毎日新聞の記事の切り抜きをいただきました。
いただいた記事は、重松清のエッセイ。
伊豆諸島に青ヶ島という人口170人足らずの島があるのだそうです。
その島へ重松清は取材で訪れ、そこで出会った方言について書かれたエッセイです。
この島での「お別れしましょう」にあたる言葉は、「思うわよう」なのだそうです。
《お別れに当たって「離れていても、あなたのことを思っているからね」》という意を込めて、「思うわよう」と言いあうのだとか。
お互いに手を振って「思うわよう」と言う光景を想像すると、なんだかあたたかい気持ちになります。
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言霊信仰ではありませんが、「お別れしましょう」という言葉を使うと、本当に今生の別れになってしまいそうで、私には言い難い言葉です。
例えば、
女が恋愛関係にある男に向かって「お別れね」と言ったとします。
「お別れね」と言われた男は(もう二度と会わない方がいいんだろうな)とピンとくるはず。
そんなこともあり、「お別れしましょう」は言い難いのですよ。
だから、
「お別れしましょう」という言葉は、別の言葉に言い換えられてきたのだと思います。
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Kぼさんが、「お別れしましょう」の言い換えの例を挙げていたので、分類してまとめてみました。
・分類1
「さようなら」「それでは」「それじゃあ」など
(「あとに続く『お別れしましょう』の省略」系)
・分類2
「再見」「see you again」「また会おう」「またね」など
(「再開を願う」系)
・分類3
「ごきげんよう」「神様がいつもあなたと一緒にいますように」「God be with
you」「Good bye」
(「相手の幸運を祈る」系)
ちなみに、
「思うわよう」は、(1)~(3)に当てはまらない言い換えなので、新鮮でステキだと思えるのでしょう。
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「言い換え」について、
Kぼさんは「I love you」の言い換え(和訳)についてブログに書いていました。
《明治の文豪(名前失念)が、「I love you」 を「つらいわ」って訳したと聞いたことがある》とのこと。
なかなかの言い換えですね。
さらに、
《漱石は「月がきれいね」》と訳したという説があったり、
《二葉亭四迷は「死んでもいいわ」》と訳したという説があったりするのだとか。
新鮮で面白く感じますね。
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私も、「言い換え」で、思い出したことがあります。
Kぼさんの場合は「I love you」 ですが、私の場合は「セックス」です。
東映の「安藤昇のわが逃亡とSEXの記録」という映画(珍品)があります。
この映画の予告編が傑作なのです。
安藤昇のわが逃亡とSEXの記録
主演は安藤昇
「逃亡者」を「おとこ」と言い換え、「情婦」を「おんな」と言い換えるという東映センス。
「葛藤」は「ドラマ」と言い換えられます。
「逃亡者!」は「おたずねもの」。
「欲情」を「セックス」。
これは分かる気がします。
「噴射」を「はけぐち」。
名訳ですね。
「女」は「スケ」。
東映的ですね。
「別離!」は「わかれ」。
「愛欲!」を「セックス」。
分かります。
「刹那!」を「セックス」。
これも分かっちゃいますね。
「男の本能」を「SEX」。
だめ押しの言い換えです。
セックスは、懐の深い言葉ですね。
明治の文豪も素晴らしいですが、東映も煽るということでは負けてませんよ。
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言い換えによって、風景が変わります。
言い換えは、文芸の原初的な遊びかもしれません。
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この更新で、2017年は最後になります。
本年はたいへんお世話になりました。
また来年まで「思うわよう」!サヨナラー!