台風一過。
長野県、中山道の木曽へ吟行に行きました。
吟行のメンバーは、大学のサークルゆかりの仲間(Hまくん、Mやさかくん)と、長野市の老舗和菓子屋のYまもとさんと電気屋のKぼさん、それと私の計5人。
木曽路には、風情のある中山道の宿場がいくつかあります。
図らずも、前々回の吟行が軽井沢、前回の吟行が姨捨、で今回が木曽という、どれも中山道沿いの旅行です。
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台風の猛威が去って、ぎりぎりまで吟行を決行するか延期するかで悩みました。
安否確認をして、句会のメンバーは運良く無事だったということが分かり、「それじゃあ行くか」。
まずは、奈良井宿へ。
木曽路は秋晴れです。
この数日で、急速に秋めいてきました。
日なたを選んで、ぞろぞろ5人で歩きます。
まずは、挨拶の一句。
《秋の日を背中に受けて奈良井宿》
木曽川で材木を運ぶために、イカダに乗る人を「中乗りさん」と呼ぶそうです。
木曽節に「♪木曽のな〜、木曽の中乗りさんは、ナンジャラホイ♪」という一節がありますね。
こんな日に句会を決行している我々の「どうでもいいぜ、行っちまえ!」という気持ちを、イカダの上の「中乗りさん」に託して、やけくその一句ができました。
《台風一過中乗りさんはナンジャラホイ!》
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私の俳句の特徴は、ケレン味のみ(まったく深みのないことでも定評があります)。
私は「俳句」という短刀を振り回し、美しい町並みからケレン味を切り取って句作することにしたのです。
ちなみに奈良井宿は、みごとに整理整頓され生活臭が感じられない場所でした。
ケレン味を重視して句作する私にとって、映画のセットのような町並みは、俳句を作りづらい環境です。
奈良井宿を散策していると、いまも泊まれる旅籠(民宿)を何軒か発見しました。
旅籠に泊まったであろう無頼の旅人の姿を想像して、一句。
《夜寒し枕元には仕込み杖》
ちょっと、作為がありすぎましたかね。
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漆塗りの櫛(くし)問屋だった建物を見学しました。
その中でも、漆塗りの櫛は、木曽みやげとして一世を風靡した銘品だったとか。
この櫛問屋は、製造から販売まで一貫して行い、財をなしたのだそうです。
ここで、一句。
《櫛を買う妾と妻に秋の旅》
妾を先にしたというのがポイントです。
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奈良井宿の中には、お寺が何軒もありました。
隠れキリシタンがお参りした名残です。
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続いて、「二百地蔵」を見学。
すると、あやしげな爺さんが近づいてきて「オレが案内してやるずら」。
ズタズタで泥で汚れたパジャマのような服を着て、互い違いのサンダルを履いた爺さんの風体を見て、いぶかしがる私たち。
すると、爺さん「カネはいらねえずら」。
爺さんのガイドは、いい加減なもので、「この石像は古いものみてぇずら。よく分からねぇが」だの「この小屋で女衆は集会したそうだ。知らねぇが」だの、あやふやな情報ばかり。
難しそうな顔で散策しているYまもとさんに対しては、「ヒゲの先生は何の先生ずら?」と、Yまもとさんを学者か何かと誤解している様子。
ただ、爺さんの言葉の中で、ひとつ心に残ったものがありました。
素朴な地蔵たちを前にして、「昔の娘たちは、身寄りのないところへ嫁にきて、こき使われたんじゃねぇのかなあ。話し相手もいねぇし。だから、ふるさとに電話をするような気持ちでお地蔵さんにお参りしたんじゃねぇかとオレは思うずら」。
お地蔵様は、身寄りのない娘にとって、故郷に繋がる公衆電話のようなものだったという話に、かつての信仰が実感でき、偲ばれたのです。
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そのわきには、かつて走っていたSLが展示されていました。
いまは、木曽路を「特急しなの」が走っていますが、数十年前は汽車が走っていたのです。
《赤とんぼ鞄に座り汽車を待つ》
「男はつらいよ」の寅さんを思い浮かべて、詠んだ一句。
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夕方。
奈良井宿を離れて、「寝覚めの床」へ。
木曽川にある奇岩の景勝地で、浦島太郎や役行者の伝説が残り、松尾芭蕉が訪れたことでも知られています。
白くうつくしい奇岩から転落すると、エメラルド色の木曽川に真っ逆さま。
ここで、一句。
《新豆腐崩して食べて寝覚めの床》
白い岩を、ダシに浮かぶ豆腐に見立ててみました。
芭蕉の句碑もありました。
庭を掃くおばあさんに話しかけると、松尾芭蕉の「更級紀行」を熟読している市井の学者でした。
二百地蔵の爺さんとは真逆で、控えめに信憑性のあるガイドをしてくれました。
いわく、この芭蕉の句は「寝覚めの床」で詠んだものではないが、芭蕉の弟子たちが「寝覚めの床」にふさわしい句であると言ったためこの地に句碑ができたという話。
いわく、芭蕉は中山道を歩いたのか、旧道を歩いたのか、諸説あるという話。
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盛りだくさんの散策を終えて、句会の会場である山奥の民宿へ。
台風一過で、私たち以外の宿泊客はすべてキャンセル。民宿は貸し切りでした。
囲炉裏にあたり、缶ビールを飲みながら句会はスタート。
匿名で俳句を提出。互選でそれぞれが天・地・人・並・並・並の6句選句し、講評します。
制限時間の中で、6句提出します。
選句をし、講評をします。
ありがたいことに、私の提出した句は、それぞれそれなりに点数をもらいました。
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(おまけ)
私が選んだ他の皆さんの句
《先生は何の先生ずら野分 Mやさか》
怪しい老ガイドのズッコケ感。
《赤とんぼ十字架として寺に舞ふ Mやさか》
マリア地蔵の景色。
《浦島の夢か奇怪なモニュメント Hま》
寝覚の床の浦島太郎伝説。
《秋暮るるマリオゲームで筋肉痛 Yまもと》
寝覚の床での岩から岩へ飛び移るときの実感。
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二次会は、塩尻の赤ワイン、白ワイン、日本酒の中乗りさんを、注いだり注がれたり。
寝覚の床でマリオジャンプしたにもかかわらずYまもとさんはハイペースで飲み、案の定「お先におやすみ」。
Kぼさんと、Mやさかくん、Hまくんとはあれこれ楽しく夜長の長話。
とはいえ我々も、台風一過で頭も体も疲労困憊。
健全に「おやすみなさい」。
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