小林旭コンサートに行った話の本編(その1)です。

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私の住む町にアキラがやってきました。チケットを取ると最前列の真ん中の席でした。

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コンサート当日のこと。

そろそろ開演時間。私は
座席に向かいました。
最前列中央の席に着くと、ステージは手が届くほどの距離でした。
うしろを振り向くと、上の席までいっぱいのお客さん。
会場は白髪で真っ白です(冗談)。
(もしかしたら私は会場で最年少だったかもしれません。)

両隣には、長年のアキラファンとおぼしき人生の先輩たち。
ペンライトを振りながらアキラの登場を待っていました。

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会場にブザーが鳴り、ゆっくりカーテンが上がります。
すると、分厚い体の男が現れ、一礼。
「こんにちは、小林旭です」
1メートルほど前にアキラ登場!
渡り鳥です。マイトガイです。
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(BSのテレビ番組より)

アキラは、真っ白な上下のスーツ姿。
スーツの下は、テカテカ光沢のある紫のYシャツ。
「止まれ」の道路標識ほど大きな三角形のシャツの襟。若々しく胸元までボタンは外しています。
足もとは、真珠のように硬そうでピカピカ光る白い革靴。
無礼なギャングなんぞ、この靴で一蹴です。
岩のような手で、マイクを持っています。

アキラは「お忙しい中お時間を割いて下さり、有り難うございます。感謝します」と、渋い声で第一声を発しました。

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歌が始まります。
声量もキーも昔のまま。
モニターなどなく、歌詞や段取りもバッチリ頭の中に入っています。
「80才になりました」という言葉がとても信じられません。

歌の合間に、ありし日の映画界の話をするアキラ。
「日活は、石原裕次郎と小林旭で売っていたんですがね」
当時、映画会社にはスターが二人ずついました。
「スターと言われた人は小林旭以外もう誰もいません。時代は変わりましたね」と、しみじみ。
確かに、スターと呼ばれた人はみんな亡くなっています。
「80才にもなると寂しくなりますがね・・・」
長く生きることで知りえた人生の不条理や真理を語るのか、と思いきや、
「80才ですがね、8を横にすると無限(∞)になるんですってね。これ以上は年をとらず同じところに戻ってくる。有り難いですよ」とのこと。
大まじめな発言なのか、冗談なのか一瞬戸惑いました。
もちろん、大まじめな発言です。
アキラの魅力は∞です。

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アキラが自身の半生を語った本(「さすらい」)に、自筆の座右の銘の写真が載っています。
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《人の世は 山坂多き旅の道 上る苦もあり 下るら苦あり 旭》
「楽」を「ら苦」と書くあたり。
大まじめなのかユーモアなのか分からないセンス。
無論、大まじめですが。
そういうところがたまりません。
(「小林旭読本」という本の中で、小林旭の大ファンを自称する小林信彦先生もこの座右の銘に大爆笑しています)

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「ら苦」の座右の銘や、80才の感慨を∞と言ったアキラを目の当たりにして思い出した話があります。

映画評論家の西脇英夫いわく、
《旭という俳優を知れば知るほど、不思議な逸材であることに驚かされる。どれほど突っ込んだ取材をしても、映画論どころか、独自の演技論も、しかつめらしい人生論も、誇らしげな成功秘話も出てこない。気負いもなければこだわりもなく、欲もなければ雑念もない。》
確かに(笑)。
これはアキラへの絶賛です。

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小林旭のコンサートの前半は、最近の曲を中心に、息も切らずに何曲も歌っていきます。
目の前のアキラを見上げながら、手が届きそうな距離に憧れのアキラがいるというのが信じられません。
マイクを持つ分厚い手を見ながら、「民暴の帝王」という映画のことを思い出していた私。
映画「民暴の帝王」の主役はアキラ。
ヤクザの親分を演じています。
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映画の中で料亭で談笑するアキラ
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目の前にいる相手の言葉にキレるアキラ。
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アキラの目の前にグラスがあります。
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バーン!
紙風船のようにグラスをペシャンコに潰すアキラ。
嘘だろ~。
(グラスをペシャンコにするのはギャグなんかではありません。アキラは無論、大まじめ!)

万が一、私がコンサート中に居眠りなどした日には、私に向かってアキラの分厚い手が振り下ろされるのではないか・・・。
ペシャンコになったグラスの二の舞になるのではないか・・・。
恐ろしくなりました。

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アキラの自伝の「さすらい」によると、日活の駆け出し時代、先輩たちに酷いイジメを受けていたのだとか。
キレたアキラは、自宅にあった日本刀を持って撮影所の入口で待ち伏せし、気にくわない先輩たちを斬ろうとしたそうです。
(先輩は裏口から逃げて、事なきをえました)
《本当に斬っていたら、それはそれで別の道に進んでいたかもしれないね》
アキラの気性を知っていた私は、緊張感を持ってアキラのステージを楽しみましたよ。

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またアキラの歌はもちろん、MCも楽しく聞きました。
「つくづく石原裕次郎はスターだったですね」
裕次郎と自身の資質を比較をするのかなと思いきや、
「裕次郎はビールを飲みながら撮影所に来ましてね。神聖な撮影所でビールを飲んでいても裕次郎にはスタッフは何も言わない。そのうち石原軍団なんていう連中もくっついて、一緒になってビールを飲んでましたがね。こっちはマジメなタチで、不器用でしたからいつも一人でしたね。かかってくるならやってやるぞ!っていう感じでしたがね」
まいったか!というような、アキラは余裕の表情。
すごいなあ。
理屈を語らず、最後は腕っぷしの話になるところが、つくづくスターですね。

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ちなみに、自伝の「さすらい」のあとがきに、
《本当に人間の世界は奇妙なものだ》とアキラは書いています。
やっと、深い話をするのかと思いきや、
この世界には《男と女があり、凸と凹があり、凸は凹を追い求め、凹は凸を受けとめて、繁殖を繰り返し、苦しみ、悲しみ、喜び、笑い、泣き・・・》
おそるべき世界観です。
そして最後は、
《行けるところまで行かせてもらうよ》
しびれます。

脱線し過ぎました。

コンサートのさらに痺れる後半(その2)は、また次回書きます。