ユーチューブでときどき落語を聴きます。

音楽と違って落語はストーリーなので、集中して聴く必要があります。

落語を聴くことは無心になるのと似ていて、聴き終わったあと頭がすっきりするような気がします。


このごろは、家事をしながら聴いています。

座禅のようなものでしょうか。


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句友の(句友と呼ぶには畏れ多いのですが)Kぼさんから、日経新聞の切り抜きをいただきました。


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「永六輔さんの声」という題の、松浦寿輝のエッセイ。

私は、松浦寿輝の本を続けて読んでいた時期がありました。また、永さんのラジオ番組は欠かさず聴いていました。

なので、松浦寿輝と永六輔の取り合わせに「おっ」と思ったのです。


記事を要約すると、

松浦寿輝は高校生のころ永さんのラジオ番組のリスナーでした。

そのときの永さんの印象というのは、東京の下町によくいるオジサン。

具体的には《頭の回転が滅法速く、ちょっぴりおっちょこちょいで、お上の権力を嫌い、自己主張が強くて大きな声で喋り、涙もろく、人が好きで、人に好かれて、面倒見がよく、ただし案外偏屈なとこもあって何かというとへそを曲げ、しかしたちまち機嫌を直す》というもの。

しかし、松浦寿輝は思春期を過ぎたころから、《永六輔の喋りの灰汁の強さ、自己顕示欲、独り善がりが少々鼻につくようになり、何となく敬遠するようになった》のだとか。


分かるなあ。

私も永さんを知ったばかりのころの印象は悪く、松浦寿輝が永さんを敬遠したのと同じように思っていました。

(対照的に、小沢昭一さんには心酔していました。)


しかし、

あるときから私は、永さんのラジオ番組はどの番組よりも面白いと思うようになりました。

それは、永さんがパーキンソン病になってから。

呂律が回らなくなり、声が聞き取りづらくなった永さん。

あるときは、呂律が回らず番組内で発声練習をしたり、別の週には入院してしまい入院先の病院から電話で出演したり、さらに別の週には転倒して骨折してしまい車イスでスタジオに来たり。

毎週、心配でラジオをつけるという番組でした。

永さんは老いていく姿をさらすのですが、苦しみをポジティブに語り、ネタに変えていく姿勢というか覚悟が、凄かった。

言葉数は減りましたが、スタジオにいることが生きていることだったんですよね。


松浦寿輝のエッセイの後半は、晩年の永さんの声について書かれています。

晩年、永さんは、久米宏のラジオ番組に出演しインタビューを受けました。

その番組内で永さんは、立て板に水のように喋っていた若いころの自分の声を聴き、「中華鍋で炒めたようなイヤな声」と言います。

本当は「いい水を鉄瓶に入れ、ポコポコっと沸いてくるような白湯のような声」で話したかったと言うのです。

それを受けて、松浦は、

《わたし(※松浦寿輝)は「油で炒めたような声」に少々辟易し、永六輔から距離をおくようになっていったわけだ。永さん自身も若いころの自分の喋りに対し同じような感想をもらし、言葉が出にくくなってきた今の自分の喋り方がむしろ優っているのではないかという強気の感想を語っている。老人永六輔の、綺麗な白湯がポコポコ沸いてくるような語りをわたしはもっともっと聴きたかった。無念でならない。》


松浦寿輝と永さんのラジオ番組をとおして繋がっていたこと、また、永さんに対して同じ気持ちを共有していたことに嬉しくなりました。

(それはそうと、松浦寿輝が永さんのリスナーだったというのが、ものすごく意外でした。)


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ところで、

AMラジオ好きと、落語好きは重なっているような気がします。

AMラジオのパーソナリティである(であった)小沢昭一、毒蝮三太夫、大沢悠里、久米宏、高田文夫、伊集院光、爆笑問題なんかは落語ファン。なので、どうしてもリスナーはその影響を受けてしまうんじゃないでしょうか。

もちろん永さんも落語好きで、実家のお寺で寄席を主催していたほどです。


そうそう、

月曜日から金曜日の朝、NHKラジオ第一で放送されている「すっぴん」も、柳家喬太郎が出演するなど落語に縁のある番組です。

ちなみに、この番組の進行を務める藤井彩子アナウンサーは落語家の妻で、夫は古今亭菊之丞です。

しなしなしている菊之丞と、つんつんしている藤井さんが夫婦だなんて分からないものですね。


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話は変わりますが、

先週、長野落語会というイベントに誘われて出かけました。

何十年も続く歴史ある落語会なのだとか。

出演者は、三遊亭小遊三と、藤井さんの夫である古今亭菊之丞。


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小遊三は「替わり目」、菊之丞は「愛宕山」でした。

菊之丞さんは声や様子が華やかで、楽しく「愛宕山」を聴いていました。

奥様の勤務先であるNHKの発祥の地が東京の愛宕山だから「愛宕山」を演じた、というわけではないと思いますが、ここでもラジオと落語の不思議な縁を感じていました。


久しぶりにライブで落語を聴きました。

終演後、三々五々闇夜に散らばっていく観客の一人として、夜道を歩いている時間がとてもとても懐かしかった。


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実は、

日経新聞のエッセイを書いた松浦寿輝は、NHKラジオ第1で「ミュージック・イン・ブック」という番組のパーソナリティを務めているのですよ。

めずらしい音楽と本にまつわる話を聴きたいときは、「ミュージック・イン・ブック」がおすすめです。


そういえば、

松浦寿輝は、「白湯がポコポコ沸いてくるように」語る人だと気がつきました。