「下諏訪旅行1」の続きです。
http://kebayshi.blog.jp/archives/1059245256.html

================

数百年前に誰が制作したのか分からない「万治の石仏」と呼ばれる石仏が下諏訪にあり、それを見物しにいきました。
下諏訪を訪れた岡本太郎が不思議な造形の「万治の石仏」を絶賛したことによって、再発見されたそうです。

================

その石仏を見に行くと、露天商のオバサンがいました。
露天商のオバサンは六十路。短いパーマで、ガラガラ声。

露天商のオバサンは、さっそく私に万治の石仏グッズを売り込んできましたよ。
(寅さんばりの啖呵売で)

================

(1)万治の石仏を萌えキャラにしたフィギュア(人形)の売り口上
露天のオバサン「これは若い子たちに人気があるんだよー。サービスエリアで買うよりもここが一番安いんだって。さっきも若いお姉ちゃんがここの値段を見て『ここで人形を買えば良かったー』って。『サービスエリアで買って失敗したー』って。『ホントにここで買っていれば良かったなー』って。そう言ってたよ。だから、絶対にこれはオススメ!!嘘じゃない!」
私は思わず笑いながら、「フィギュアには興味がないんです(笑)」と答えました。

すると、
露天のオバサンは、売り込み商品を変えてきたのです。

(2)万治の石仏ストラップの売り口上
露天のオバサン「このストラップはなんといっても丈夫なんだねー。私もポーチのチャックのところにつけて何年にもなるけど壊れないんだねー。洗濯機に入れても壊れない。何をしても壊れない。自分で試して自信があるからオススメできる!自信がなかったらオススメしない!!絶対にオススメ!!嘘じゃない!」
私は笑いが止まらない状態で、「私は携帯電話にストラップつけないんですよぉ(笑)」 

めげないオバサンは、さらに売り込み商品を変えてきました。

(3)万治の石仏キーホルダーの売り口上
露天のオバサン「このキーホルダーが若い人の中で、はやっているんだねー。腰のベルトの金具にキーホルダーをつけるのが若い人に大人気なんだねー。さっき若いお兄ちゃんが来て『おばちゃん見てー』って。『カッコイイでしょー?』って。シャツをめくり上げてベルトにつけたキーホルダーを見せてくれたんだねー。若い人には絶対にオススメ!嘘じゃない!・・・嘘だと思ってる?嘘じゃないよ!これは絶対に嘘じゃない!」
私はゲラゲラ笑いながら、「要らないです(笑)」

それでもくじけないオバサンは、またまた売り込み商品を変えてきました。

(4)カリンのど飴の売り口上
露天のオバサン「このカリンのど飴はもう絶対に効く!私は花粉症で長年クシャミが止まらなくて悩んでいたんだけど、この飴を2~3粒なめたら、ピターってクシャミが止んだね。この飴をなめれば風邪だって何だって治っちゃう!嘘じゃない!信じないかもしれないけど、絶対に嘘じゃない!!」
私はアハハハと噴き出して、「健康なんで、要らないです(笑)」

================

何も買わずに帰ろうとする私たち。
すると、私たちの背中に向かって、オバサンは叫んだのです。

露天のオバサン「助けると思って、なんか買って~!!」

帰ろうとしていた私は踵を返し、笑いながら「じゃあ、これ下さい(笑)」と、カリンのど飴を購入していました。
戦利品。

================
================

小沢昭一さんの「ものがたり芸能と社会」という名著によると、
「啖呵売」は「芸能」のひとつとして紹介されています。
小沢昭一さんが取材したバナナ売りのテキヤも、《ずうっと口上を歌でやるんです。つまり売り口上そのものが芸でありました》。
小沢さんが縁日で出会ったコマ回しの芸人も居合抜き芸人も、芸を見せてから最後に歯磨き粉を売ったそうです。
《大体テキヤ稼業は、私ども芸能稼業の本家のように私は思っております》。
そして、
《テレビの画面の流れはもういわば縁日だというふうにも思われます。CMはもうタンカバイ、物売り芸ですし、芝居はもちろん、のぞきからくりも見世物もある。ニュースなど報道ものも、昔は「瓦版売り」「読売り」などといって、道の芸人の営業範囲でありました》。
なるほど、面白いなあ。

================

「男はつらいよ」の寅さんの売り口上も、渥美清が少年時代にテキヤを見て覚えた啖呵売なのだとか。
「男はつらいよ」が始まる前、渥美清が、少年時代に覚えた売り口上を山田洋次に披露したことによって、車寅次郎というキャラクターが生まれたそうです。

================
================

話は、下諏訪のいかがわしいオバサンに戻ります。
オバサンの口から出任せが立て板に水のように出てくる、ということに恐れ入った私。
見事な啖呵売(名人芸)を楽しんでしまったために、私は、カリンのど飴を買わざるを得なかったのでした。